名古屋高等裁判所 昭和26年(う)529号 判決
公職選挙法(以下単に法と略称する)第百四十二条に依れば選挙運動のために使用する文書図画は同条所定の一定数の通常葉書以外一切その頒布を禁じ、選挙運動のため使用する回覧板其他の文書図画又は看板の類を多数の者に回覧させることは之を頒布とみなすと規定し又同法第百四十六条第一項には何人も選挙運動の期間中は著述、演芸等の広告其他いかなる名義をもつてするを問はず第百四十二条(文書図画の頒布)又は第百四十三条(文書図画の掲示)の禁止を免れる行為として公職の候補者の氏名、政党其他の政治団体の名称又は公職の候補者を推薦し、支持し若くは反対する者の名を表示する文書図書を頒布し又は掲示することはできないと規定している。斯の如く法が文書図画の頒布掲示を厳重に制限した理由は資材難等の経済事情に依る選挙費用の高騰を防ぎ選挙の公正確保を図るを目的としたものであるから、公職の選挙に於ては一定数の通常葉書以外の文書は一切選挙運動のため頒布することができないのである。けれども選挙事務所の設置、立会人の依頼、演説会開催の問合せ、其他純然たる選挙事務の連絡に使用される文書はそれが立候補又は選挙運動の準備のための事務的行為と認められる限度に於て使用される限り選挙運動のために使用する文書図画の頒布とはみなされないと解するのが相当である。
而して本件の文書「街頭演説大要」なるものは押収に係る証第一号乃至第五号に依れば昭和二十五年六月四日施行の参議院議員選挙に際し、同議員候補者として最適任であるから同人に投票せられたい旨及同議員候補者の氏名の表示を大小の活字を使用して緑色紙に印刷したビラで同候補者を当選させるため同人に投票を依頼する旨の文書即ち選挙運動のために使用する文書であることは一見して極めて明瞭である尤も右文書中には弁士注意として応援弁士の心得るべき注意事項の記載もあるけれども同文書全体を通覧すれば前記候補者の経歴抱負並投票依頼が其主たる趣旨を為し弁士注意事項は其附随的記載に過ぎないと認められるから本件文書を前記の如く認定するを相当と解する従つてかかる文書は前記法第百四十二条第一項に規定する通常葉書以外の文書図画で之を頒布することは同法条の禁止に違反するものである。而して本件文書は街頭応援演説の原稿であつて之を街頭演説をする応援弁士に交付することは法の禁ずる所でないとの所論については本件文書は選挙運動のために使用する文書であること前段説明の通りであつて之を目して選挙運動の準備のための事務的文書とは到底認められない。従て所論の応援弁士に演説原稿とするため本件文書を配布しても之が選挙運動のためである限り前記法第百四十二条に違反する文書の頒布となること勿論である。